クリニックが体験談を掲載できない理由|医療広告ガイドラインの規定
「患者さんから良い感想をいただいたので、サイトに載せたい」という相談は、医療機関のウェブ担当者から繰り返し出てきます。他業種では当たり前の施策が、医療機関では使えません。 理由は、…

目次 8 SECTIONS
- 治療等の内容または効果に関する患者の主観的な体験談は、医療広告ガイドラインで広告が禁止されている
- 第三者の口コミは、医療機関が費用負担などの便宜を図って掲載を依頼していなければ広告に該当しないとされている
- 患者に肯定的な体験談の投稿を依頼すると、有償か無償かを問わず誘引性が生じ、規制の対象になり得る
「患者さんから良い感想をいただいたので、サイトに載せたい」という相談は、医療機関のウェブ担当者から繰り返し出てきます。他業種では当たり前の施策が、医療機関では使えません。
理由は、医療法とその下位規定である医療広告ガイドラインが、治療等の内容または効果に関する体験談の広告を禁じているためです。禁止されているのは「体験談そのもの」ではなく、範囲に線が引かれています。この線を知らないまま運用すると、自院サイトだけでなく、Googleのクチコミの扱いまで判断できなくなります。
ここでは、禁止の根拠となる規定、広告に該当するかどうかの判断基準、第三者の口コミがどちらに入るのかを順に整理します。なお、本記事は2026年9月時点の規定を前提としています。具体的な表示の可否は、管轄の保健所や専門家に確認してください。
体験談の広告を禁じているのは、どの規定か
医療広告の規制は、医療法第6条の5を出発点にしています。同条は、虚偽の広告の禁止(第1項)、比較優良広告・誇大広告などの禁止(第2項)、広告できる事項の限定(第3項)を定めています。
このうち第2項は、第4号で「その他医療に関する適切な選択に関し必要な基準」を厚生労働省令に委ねています。体験談の広告禁止は、その省令である医療法施行規則第1条の9第1号に置かれています。同条第2号が術前術後の写真に関する規定です。
医療広告ガイドラインは、この省令の規定を次のように説明しています。
患者その他の者の主観又は伝聞に基づく、治療等の内容又は効果に関する体験談の広告をしてはならないこと
ガイドラインは続けて、これが「医療機関が、治療等の内容又は効果に関して、患者自身の体験や家族等からの伝聞に基づく主観的な体験談を、当該医療機関への誘引を目的として紹介すること」を意味すると述べています。
なぜ禁止されているのか
ガイドラインは理由を明示しています。
こうした体験談については、個々の患者の状態等により当然にその感想は異なるものであり、誤認を与えるおそれがあることを踏まえ、医療広告としては認められない。
つまり、体験談の内容が本当かどうかは論点ではありません。ある患者にとって事実であっても、状態が違う別の患者が同じ結果を期待してしまう構造そのものが問題とされています。真実の体験談を正確に引用しても、規制の対象から外れません。
「広告」に該当するかどうかの判断
体験談の可否を判断するには、その表示が医療広告に該当するかを先に見ます。ガイドラインは、次の要件をいずれも満たす場合に医療広告に該当するとしています。
| 要件 | 内容 | 判断のポイント |
|---|---|---|
| 誘引性 | 患者の受診等を誘引する意図があること | 誰が、何のために掲載しているか。医療機関が関与して掲載させた場合は誘引性が認められやすい |
| 特定性 | 医業・歯科医業を提供する者の氏名や名称、病院・診療所などの名称が特定可能であること | 医療機関名が特定できるかどうか。匿名化されていても特定できれば該当し得る |
| 医業等に関する内容 | 医業もしくは歯科医業、または病院もしくは診療所に関する内容であること | 治療の内容や効果に触れているか |
自院が運営するウェブサイトに患者の感想を掲載する行為は、通常この3要件をすべて満たします。したがって、治療の内容や効果に関する感想であれば、掲載できません。
第三者の口コミは、どちらに入るのか
ここが実務でもっとも判断に迷う部分です。ガイドラインは、第三者が投稿した体験談について次のように述べています。
個人が運営するウェブサイト、SNS の個人のページ及び第三者が運営するいわゆる口コミサイト等への体験談の掲載については、医療機関が広告料等の費用負担等の便宜を図って掲載を依頼しているなどによる誘引性が認められない場合は、広告に該当しない。
境目は「医療機関が関与したかどうか」です。Q&Aは、医療機関の検索が可能なウェブサイトに掲載された体験談について、特定の医療機関の体験談に誘引性がある場合は広告規制の対象となるとしつつ、「医療機関からの影響を受けずに患者やその家族が行う推薦に留まる限りは、誘引性は生じません」と説明しています。
| 状況 | 広告への該当 | 根拠 |
|---|---|---|
| 患者が自発的にGoogleのクチコミへ感想を投稿した | 該当しないとされている | 医療機関の関与による誘引性が認められない |
| 医療機関が患者に肯定的な体験談の投稿を依頼した | 誘引性が生じる | 有償・無償を問わず依頼した場合は誘引性が生じるとされている |
| 医療機関が口コミサイトに広告料などの費用を負担している | 誘引性が生じ得る | 費用負担等の便宜を図って掲載を依頼している場合に該当 |
| 体験談が編集されたサイトの運営費を、医療機関が事後的に負担した | 誘引性が生じるとされている | Q&Aが事後的な費用負担についても言及している |
| 自院サイトに患者の感想を転載した | 該当する | 3要件を満たし、体験談の広告禁止に触れる |
第三者の投稿をそのまま自院サイトに転載すると、掲載しているのは医療機関になります。投稿元が第三者であっても、転載した時点で自院の広告として扱われます。「引用元を書けば載せられる」という整理は成り立ちません。
治療前後の写真はどう扱われるか
体験談とあわせて相談が多いのが、術前術後の写真です。ガイドラインは、治療効果に関する事項は広告可能事項ではないため、限定解除の要件を満たさない場合は術前術後の写真等について広告できないとしています。
Q&Aは、手術前のみ、または手術後のみの写真についても「患者等を誤認させるおそれがある治療効果に関する表現に該当するため、広告できません」と述べています。片方だけなら問題ないという整理は取れません。
体験談と写真では、規制のかかり方が違います。術前術後の写真は限定解除と関係づけて説明されていますが、体験談は限定解除の対象・対象外という論点ではありません。
体験談の禁止は、広告できる事項を限定した医療法第6条の5第3項ではなく、広告の内容や方法の基準を定めた同条第2項第4号にもとづく省令の規定です。規制の軸が別なので、限定解除の要件を満たしても体験談は掲載できません。ガイドラインも、患者等の体験談について、その記述内容が「広告が可能な範囲であっても、広告は認められない」としています。
限定解除の適用範囲は判断が細かいため、写真の掲載を検討する場合は監修を通してください。
患者に投稿を依頼すると、何が起きるか
口コミの件数を増やしたい医療機関が、来院時に投稿を依頼することがあります。ここには3つの規制が重なります。
- 医療広告ガイドライン:医療機関が患者やその家族に、有償・無償を問わず肯定的な体験談の投稿を依頼した場合、その体験談には誘引性が生じるとされています。誘引性が生じれば、治療内容や効果に関する体験談は広告規制の対象になります。
- Googleのポリシー:クチコミの投稿や変更、否定的なクチコミの削除と引き換えに、商品やサービスを無料または割引価格で提供することは固く禁じられています。違反はビジネスプロフィールの制限につながります。また、金銭や報酬と引き換えの投稿は虚偽のエンゲージメントとして禁止されています。
- 景品表示法:事業者の表示であることを一般消費者が判別しにくい表示は、令和5年10月1日から不当表示として規制されています。この告示は、事業者が第三者に依頼・指示して行わせた表示も対象に含みます。
3つは規制の目的も所管も異なりますが、実務上は同じ場面で同時に問題になります。「肯定的な内容を指定して依頼する」「投稿の見返りを用意する」のいずれかを行うと、少なくともどれかに触れます。
依頼を行う場合は、内容を指定せず、見返りを用意せず、投稿するかどうかを患者の判断に委ねる形に限ります。医療機関では、投稿内容が治療効果に及ぶ可能性がある点も踏まえ、依頼自体を行わない判断も選択肢です。
口コミへの返信はどう扱われるのか
Googleのクチコミに医療機関が返信する場合、返信は医療機関自身の表示になります。返信の中で治療の効果に触れれば、医療機関が発信した内容として評価される可能性があります。
また、返信で来院の事実に触れると、Googleのポリシーとの関係でも問題が生じます。Googleは、同意なく氏名、写真、財務情報、医療情報などを投稿することを禁じています。返信は公開され、投稿者にも通知が届くため、来院日や受けた処置に触れる文面は避けます。
返信の可否と書き方は論点が多いため、医療機関では返信テンプレートを法務・医療監修の確認を通してから運用に乗せてください。
体験談を使わずに、何を載せられるか
体験談が使えないことは、伝えられる情報がないことを意味しません。次の整理が出発点になります。
- 提供している診療科、診療日・診療時間、医師の経歴や専門性といった、医療法上の広告可能事項
- 治療の流れや設備、通院の回数といった、効果を示唆しない事実の説明
- 患者が疑問に感じる点への回答(費用の目安、通院期間、想定されるリスクなど)
- 院内での説明資料や同意書の内容を、掲載可能な範囲で公開すること
体験談が担っていた「他の人はどうだったのか」という関心は、治療の流れとリスクを具体的に書くことで一部を置き換えられます。この方向は、医療広告の規制に触れずに情報量を増やせるため、規制のある業種でこそ効きます。
よくある質問
患者の許可をもらえば、体験談を掲載できますか
できません。体験談の広告禁止は、患者の同意の有無を要件にしていません。ガイドラインは、個々の患者の状態により感想が異なり誤認を与えるおそれがあることを理由に挙げています。同意を得ても、誤認のおそれという理由は解消されません。
Googleのクチコミに書かれた体験談は、削除してもらう必要がありますか
患者が医療機関の関与なく自発的に投稿したものであれば、広告に該当しないとされています。医療機関が投稿を依頼していない限り、それ自体が医療広告規制の違反になるという整理ではありません。ただし、自院サイトへの転載は広告に該当します。
匿名化して「30代女性」のように書けば掲載できますか
匿名化しても、治療等の内容または効果に関する主観的な体験談であれば、禁止の対象から外れません。特定性の要件は投稿者ではなく医療機関側の特定可能性を問うもので、患者を匿名にしても医療機関は特定されています。
症例写真の掲載も一律に禁止されていますか
ガイドラインは、治療効果に関する事項は広告可能事項ではないため、限定解除の要件を満たさない場合は術前術後の写真等を広告できないとしています。限定解除の適用には要件があり、Q&Aは限定解除の記載について患者が容易に視認できる必要があると述べています。掲載を検討する場合は、要件の充足を個別に確認してください。
規定は更新されていますか
医療広告ガイドラインとQ&Aは通知により随時更新されています。あわせて公表されている「医療広告規制におけるウェブサイト等の事例解説書」は第6版が令和8年3月30日付で示されています。運用を組む際は、厚生労働省のページで最新版を確認してください。
本記事の手順・仕様は2026年9月時点のものです。Googleの仕様は変更されることがあります。
比較検討に使える資料を無料で配布しています
業種別のベンチマーク、運用チェックリスト、返信例文集をまとめてお送りします。ツール選定の判断材料としてお使いください。
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